【シリーズ 私の臨床】食べる機能の障害
「美味しい物を食べる喜び」「食卓を囲んでコミュニケーションを楽しむ」など、食べることは栄養を摂取するだけではなく「生きがい」や「楽しみ」と直結しています。しかし、病気や事故、生まれつき食べる機能の障害(摂食嚥下障害)を呈している方々がいらっしゃいます。
私が言語聴覚士として摂食嚥下リハビリテーションを担当したAさんと奥様について思い出します。Aさんは、癌により摂食嚥下障害になりました。体調は優れず、固形物を咀嚼し飲み込む力も弱くなっていました。そのため、病院食は召し上がる気力がなく、ご家族の持ち込み食だけを言語聴覚士のリハビリ時に召し上がって頂きました。時には、ほんの数口で激しくムセ込んでしまい、食事を中止する事もありました。その都度、奥様はAさんの背中を摩り寄り添われました。奥様は、持ち込み食として3品のペースト食(ミキサーをかけた食事)を毎回作ってきて下さいました。ある時、奥様のご負担を考え「持ち込み食を作るのは大変じゃないですか?」と声を掛けました。奥様は「私、嬉しいんです。(ビーフシチューペーストを指さしながら)これ、新婚時代に初めて"美味しいね"って言ってくれたお料理なんです。作っている時に、そんなことを思い出したら、この人と一緒に生きてきて幸せだったな、、、と思いました」とお話し下さいました。
言語聴覚士の仕事は、患者様だけでなく、患者様のご家族とも一緒に歩む仕事であることを改めて教えて頂きました。
多くの患者様からお礼のお手紙を頂きました。私の宝物です。
言語聴覚学科 平田 文