【シリーズ 私の臨床12】「子どもの成長を支え、"楽しい"を分かち合う」
わが子の健やかな成長を期待しない親はいないでしょう。
わが子の育児に悩まない親はいないでしょう。
お母さんのお腹の中にいるときは、"無事に生まれてくれさえすれば"と願っていたのが、いざ、この世に生まれ落ちたとたん、親というのは、みんな欲張りになってしまうのです。「早く首が座って欲しい」「夜はぐっすり寝て欲しい」「ご飯を残さずに食べて欲しい」「早くお話ができるようになって欲しい」などなど。
さまざま期待が子どもの周りを渦巻いています。そして、這えば立て、立てば歩めの親心と言いますが、月日を重ねるごとに、「もっと、もっと」と尽きることのない期待を子どもに寄せています。時に、その期待に応えられないことで、親子ともに傷つき、自信を失ってしまうことがあります。
言語聴覚センターでは、ことばや聞こえ、コミュニケーションの発達に悩みを抱えるお子さんとそのご家族の支援を行っています。センタ―を訪れるきっかけは様々ですが、小さなお子さんは、自分自身の「ことば」や「コミュニケーション」について悩む前の段階にあり、「周りの子と違うのかな」等の悩みや心配事の多くは、親御さんが抱えています。
「みんな一緒」と協調性を重んじる文化が根強い日本の中で、大人の期待通りの振る舞いをしない子どもは、異端の扱いを余儀なくされます。頭ではわかっていても、個を尊重することは、想像以上に難しいことです。私たち言語聴覚士は、子どもの発達を促すお手伝いをするとともに、ご家族の声に耳を傾け、不安や悩みに寄り添います。時には、孤軍奮闘しているお母さんを労い、その子らしく生活できるよう、周囲のサポーターを増やす働きかけを行います。そのひとつが子どもの「好きなこと、得意なこと」をみつけ、子どもと一緒に「楽しいね」という感情を全身で共有することです。大人もそうですが、楽しさの共有は、コミュニケーションの第1歩になります。子どもと親御さんと一緒に「楽しい」を探し、共有することは、私の臨床の喜びになっています。
言語聴覚学科 佐藤妙子