【私の研究:乳幼児のための聴力測定法の研究開発】
赤ちゃんは、かわいいですね。難聴がみつかった赤ちゃんには、両耳に補聴器を着けるなんて聞くと、意外に思われる方も多いかもしれません。小さな耳に補聴器を着けて、生まれて初めてママの声をきいたときの赤ちゃんの姿は、とても感動的です。
補聴器によって声を耳に届けるためには、そのお子さんの聞こえの状態をよく調べた上で音のフィッティングを施すことが大切です。けれども、赤ちゃん自身が「聞こえるよ/聞こえないよ」と教えてくれるわけではありません。20才代の頃、新米STとして緊張感に胸を高鳴らせながら聴覚障害児の早期教育の現場に出たばかりの1990年代後半、乳幼児の聞こえ方(周波数別の聴力)の把握はまだ難しく、補聴器が正しく合っているのか、音の聞こえ方は十分なのかを判断する手段に欠け、苦闘する日々でした。聴力を正しく測定するための研究が必要でした。
そんな折、イギリスから来て下さった先生から、欧米ではVRA(視覚強化聴力検査)とよばれる新しい検査法が広く使われていることを諭されました。子どもの検査音への振り向きを、光る特殊なオモチャで強化するというユニークな検査法です。すぐさま、検査設備の改良に取りかかりました。米国から輸入された乳幼児用イヤホンは、アイデアがつまった素晴らしい作りでした。この新型イヤホンを測定装置に組み込んで0歳10ヵ月の女の子にVRAを試したところ、見事に左右耳別の聴力測定に成功したのです。
VRAの導入成果について医学系学会で初めて報告したのは1999年のことで、現在では他の諸検査法とともに、乳幼児のための重要な聴力測定法の1つに位置づけられています。けれども、0歳からの聴覚障害乳幼児への最早期支援はまだ始まったばかりと言うべきで、未開拓のテーマがたくさんあります。若者のみなさんたちの挑戦に期待しているところです。
言語聴覚学科 富澤晃文