【私の研究:人工内耳と音楽】
聴覚障害(何らかの原因で音やことばが聞こえ辛い状態)のある方は、音楽は聞こえないから楽しめないでしょうか。答えはNOです。聴覚障害があっても、音楽を享受し楽しむ自由があり、音楽家のベートーヴェンやスメタナも難聴で苦しみながら、後世に残る名曲を生み出しています。この時代に補聴器や人工内耳があったら、彼らの奏でる音楽も変わっていたのかもしれません。
聞こえを補う手段のひとつである人工内耳は、補聴器では改善がみられない高度難聴の方々のために開発された埋め込み型の医療機器です。医療工学の発展により、人工内耳での言葉の聞き取りは劇的に改善しましたが、機器の特性上、音楽は難しいと言われてきました。言葉が聞き取れるのに、どうして音楽は分からないのでしょう。人工内耳は「ことば」を伝えるために開発をされた機器であることから、音楽を正確に伝達するには十分な機器ではなく、ドレミ~♪という音の高さが聞き取りにくいことが原因であると多くの研究で明らかになっています。人工内耳を通して聴く音楽を「お経のようだ」「音の高さがない」と表現する方もいて、人工内耳を通した音楽を嫌いになる人もいます。また、正確に歌う事が難しいため、学校生活において音楽が嫌いになる子供もいます。
「音楽を聞きたい、楽しみたい」と願う多くの人工内耳装用者が、少しでも音楽が楽しめるような方法を見つけられたらと思い研究を続けていますが、その中で学んだことは、音楽をどのように聞くか、どのように感じ楽しむかは個人の自由であり、人工内耳の子供たちは、聞こえる子供たちと何ら変わりなく、日常的に音楽を聴き、歌い楽しんでいるという事実です。これからも、大好きな音楽を届ける研究を続け、日本中に広めていけたらと思います。
言語聴覚学科 大金さや香