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日本における2017年から2021年までのフレイル有症率の変化についての研究を発表

2023.07.27

日本における2017年から2021年までのフレイル有症率の変化


国際医療福祉大学(筆頭著者:広瀬環,責任著者:浦野友彦)らは,栃木県大田原市において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大前の2017年~2019年とCOVID-19拡大下の2020年~2021年の5年間におけるフレイル*変化で,COVID-19拡大を境にロバスト(健康)が減少し,プレフレイル・フレイルが増加することを明らかにしました(図1).また,基本チェックリスト**の質問項目であるNo.4「友人の家を訪ねていますか」で「いいえ」,No.17「昨年と比べて外出の回数が減少していますか」で「はい」と回答した方が,COVID-19拡大を境に顕著に増加しました(図2).さらに,一般的にフレイル評価に使用される 25項目総得点に加え,COVID-19拡大後に大いに影響を受けうる外出の質問(No.16および17)を除いた23項目,交流と外出の質問(No.4およびNo.17)を除いた23項目を用いて同様の解析を行なった結果,これらを除外した解析においても総得点で有意な増加を認めました.このように外出や社会的な質問項目を除いた解析でも,地域在住高齢者においてCOVID-19拡大以降でフレイルが悪化していることが明らかとなりました.



  • 図1 5年間のフレイル有症率の変化
  • 図2 基本チェックリストの質問項目No.4とNo.17の5年間における回答の変化

    論文を基に日本語訳:筆頭著者,広瀬環が作図

*フレイル:加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が亢進した状態(要介護の前段階)を指す.フレイル(虚弱)の前段階をプレフレイル(前虚弱),さらにその前段階をロバスト(健康)と呼ぶ.フレイルには,身体的,心理・精神的,社会的という多面性と,健康な状態へと回復できる可逆性があることが特徴である.


**基本チェックリスト(KCL):介護予防事業の一環で厚生労働省が作成したものであり,生活状態や心身の機能に関する25の質問に対して,「はい」か「いいえ」で回答する自記式質問票である.日常生活関連動作,運動機能,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知機能,うつの7領域で構成される.高齢者の総合機能評価が可能であり,妥当性のある評価法として認識されている(参照:補足資料).



【論文情報】
Tamaki Hirose, Yohei Sawaya, Masahiro Ishizaka, Hashimoto Naori, Akira Kubo, Tomohiko Urano. Frailty under COVID-19 pandemic in Japan: Changes in prevalence of frailty from 2017 to 2021 雑誌: Journal of the American Geriatrics Society 71(5):1603-1609. doi: 10.1111/jgs.18237. 論文抄録を基に日本語訳:筆頭著者,広瀬環が作成

【目的】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大後,高齢者において「コロナフレイル」,生活自粛による健康状態・フレイル状態の悪化が懸念事項として挙げられている.本研究では,COVID-19拡大前と拡大下のフレイル有症率を調査することで,高齢化が進む日本においてパンデミック関連のフレイル悪化が発生しているかどうかを明らかにすることを目的とした.

【方法】
COVID-19拡大前の2017年~2019年,拡大下の2020年~2021年の5年間に,基本チェックリスト(KCL)を用いたアンケート調査を実施した.栃木県大田原市の70歳と75歳の要介護認定者を除いた全高齢者のうち,5222名を解析対象者とした.KCLを用いて,ロバスト,プレフレイル,フレイルを判定した.統計解析は,5年間のフレイル状態をχ2検定,KCLの得点をKruskal-Wallis検定にて行った.

【結果】
5年間フレイル有症率の変化は、COVID-19拡大下の2020年以降で,ロバストが有意に減少し,プレフレイルおよびフレイルが有意に増加した(p < 0.001).フレイルは2021年に顕著に増加した.KCLの領域別にみると,日常生活動作(p<0.001),運動(p=0.003),口腔機能(p < 0.001),外出(p < 0.001)、抑うつ(p < 0.001)でスコアが有意に悪化した.また,25項目の合計得点に有意な悪化がみられた(p < 0.001).自粛生活に影響を受けた外出に関連する項目を除いた23項目の合計点でも有意な悪化を認めた(p < 0.001).

【結論】
高齢者におけるフレイル有症率の変化は,COVID-19拡大前より,パンデミックの1年目,2年目にかけて着実に増加した.KCLの25の質問の変化では,友人との交流や外出の減少を含む2つの側面が際立っていた.このことは,日本ではパンデミックに伴うフレイル悪化が発生したことが示唆された.

本研究は,大田原市役所高齢者幸福課と業務委託契約のもと協同調査にて実施致しました.

本研究について6月25日の朝日新聞で紹介されました.
朝日新聞社デジタル版URL:https://www.asahi.com/articles/ASR6S4SYJR6FUTFL01S.html



《補足資料》 基本チェックリスト